■  「お客様の声」作成担当者に聞く 



2005年2月に創刊し、年3回発行しているお客様事例集『お客様の声』。お客様の情報活用の下支えとなる事例を紹介し始めてから、2008年6月現在、第7号を発行するに至っている。その『お客様の声』作成を担当する「情報活用のアシスト」実践プロジェクトのリーダーである根井さんと、アドバイザーの原さんに、冊子作成の目的や有効活用法などを聞いた。

もくじ 
  1. なぜ『お客様の声』を作るようになったのか
  2. エグゼクティブ層に読んでもらいたい  〜予想外の反応も
  3. 酪農農家がIT? 〜誰もが「なるほど」と思う、営業に役立つ事例を
  4. 「面白いね〜」と喜んでもらえる事例を作るには?
  5. 和風デザインの意味 その他のこだわり
  6. 結果につながる『お客様の声』の効果的な使い方とは?
  7. 今後の抱負について


■ なぜ『お客様の声』を作るようになったのか

-- まずはじめに、『お客様の声』を作成するようになった経緯についてお聞かせください。

2004年、アシストの強み再構築プロジェクトによって、会社目標に「『情報活用といえばアシスト』と言われるようになる」が掲げられたことが発端です。その後、「アシストが考える情報活用のあるべき姿」を体系化するメンバーが召集され、「情報活用のアシスト」ロゴを作成したり、情報活用実現のための「6つの鉄則」を掲載した小冊子や「情報活用ストラクチャーマップ」などを作りました。

しかし、これらのツールは、ともすれば概念的であったり、提供者本位と受け取られがちであったり、お客様に「情報活用=アシスト」を訴求するには多くの補足説明を必要とするものであったため、営業現場では活用しにくかったようでした。そこで実際に、アシストがお客様の「情報活用」を支援している実例を目に見える形で紹介するものがあれば良いのではないかということになったのです。こうして「情報活用のアシスト」のベストプラクティス集として、『お客様の声』を作ることにしました。

この冊子を通じて、情報活用をキーワードに、「こんな使い方をされている会社があります」、「こんな結果を出すことができます」ということを紹介し、読者であるお客様に、情報活用実践のヒントを提供したいと考えました。2005年のことです。


-- 「情報活用のアシスト」が実践されていることを、目に見える形で紹介するために作ったということですね。

もう1つ大きな理由があります。それは、『お客様の声』は、実際の「お客様の声(要望)」がきっかけで作ることにしたということです。

アシストでは毎年顧客満足度調査を行っていますが、その中で最も多くいただいたご要望が、「他社の取り組み内容を自社の課題解決のヒントにしたいので、事例を紹介して欲しい」というものでした。

「今自分の会社はこんなことで困っているのだけれど、アシストのお客さんで同じような悩みを持っていて、それを解決したような事例はありませんか」など、多くのお客様が他社事例の情報提供を望まれたのです。

そうした声に応える形で、冊子を作成しました。


-- ちなみに、アシストには『お客様の声』だけでなく、隔月刊の広報誌『アシスト』誌がありますが、どのように使い分けているのでしょうか。

『アシスト』誌は隔月で発行している広報誌で、情報技術やソフトウェアを通じて、アシストと接点を持たれたお客様に、情報技術の今後の展望や方向性を示唆する内容を中心にお届けしています。最近の号では、オープンソース・ソフトウェア(公開ソフトウェア)に関連した内容を多く掲載しています。現在、アシストの提供製品は、ほとんどが、ソースコードが公開されていない「非オープン」なソフトウェアですが、今後は、お客様がシステムの内容に応じて、オープンソース・ソフトウェアの利用を増やしていくことになる(あるいは、増やしていくべきである)との信念のもと、こうした記事を『アシスト』誌に掲載しています。そして、オープンソースの利用を考えていないお客様に、オープンソースの利点や、非オープンの問題点などを訴えていくことは、お客様の利益を考えた、お客様のための啓蒙活動であると捉えています。

-- 「お客様のための啓蒙活動」について、もう少し具体的に説明していただけますか。

啓蒙活動や情報提供に対するアシストのスタンスは、『アシスト』誌の起源ともいえる『アシスト・メモ』に遡ります。1980年に『アシスト・メモ』を創刊した当時は、ワープロやパソコンが普及する前で手書きのニューズレターを社長自ら情報収集・執筆していました。アシストが販売する商品の宣伝をするのではなく、中立的な立場から、技術や業界動向を顧客に伝えることが目的でした。

実は、『アシスト・メモ』発刊のきっかけも、『お客様の声』と同様、お客様からの助言だったのです。当時、社長のトッテンが、アシスト創設時にお世話になった永妻寿氏の後輩を日本航空に尋ねた際、以下のように教わりました。

「我々は情報が欲しい。新聞や雑誌に書かれている情報は、みんなが同時に手にする。しかし、ビル・トッテンと会わなければ得られない情報があるならば、いつでも誰でも会ってくれる。だからそのお客様に役立つ情報を持っていきなさい」と。こうしてトッテンは「顧客を訪問するには、顧客にプラスになる『手土産』が必要」ということを学びました。

そして、その助言に従って、日本進出前のガートナーグループなどから情報を集め、日本の顧客向けに編集して『手土産』として提供するようになったのが起源です。

-- ガートナーグループというと、あの「ガートナーレポート」を発行している調査会社ですか。

はい。社長のトッテンが、ガートナーグループの設立準備中のギデオン・ガートナーを1979年に訪問し、日本は「アメリカのコンピュータ業界の影響が大きいので、アメリカの情報が欲しい。一方、日本の情報を提供できるので情報交換をしないか」と話を持ちかけ、ガートナーグループとのパイプができ、日本のユーザにガートナー情報を提供するようになったと聞いています。

その後、1984年になると、「情報管理者メモ」「役員メモ」とお客様の対象別にメモの内容が分けられ、ガートナーに限らず、英文の各種コンピュータ情報誌からコンテンツを選択し、翻訳して提供するようになりました。

そして、1986年になって、現在の『アシスト』誌のような形態となり、ユーザ訪問やセミナー講演録、お客様対談、アメリカ通信などを含む広報誌となったのです。また1988年5月からしばらくの間は、日本のパソコンソフトの価格破壊につながった、「スパーマイクロコンピュータ革命」シリーズのニューズレターも発行しています。

1980年の『アシスト・メモ』の創刊以降、それぞれの広報誌で目指してきたのは、中立的な立場での、お客様に有益な情報提供と新しいトレンドを示唆する啓蒙活動です。『お客様の声』は、「事例」に限定した内容ですが、もう1つの広報誌『アシスト』誌では、事例に限定せず、その時々で顧客に知らせたいITトレンド情報を中心にお届けしています。

 

■ エグゼクティブ層に読んでもらいたい 〜予想外の反応も

-- それでは、『お客様の声』に話を戻します。『お客様の声』はどのような人に手に読んでもらいたいのでしょうか。特定の層を意識して作られているのですか。

『お客様の声』は営業担当者が日頃なかなかお会い
できないエグゼクティブ層に読んでいただけるよう
意識して作りました。

経営上の意思決定を行うエグゼクティブ層にお渡しすることで、「こんな課題をアシストが解決してくれるのか」という印象付けを狙ったのです。

ただ実際にはエグゼクティブ層以外のお客様にも、新規訪問する際などに、アシストがどのような会社かを知ってもらうことに役立っている例もあるようです。これについては、後半でご紹介したいと思います。


-- 『お客様の声』では、アシストの活動や製品を直接宣伝する形にはなっていませんが、それも意識してそうなっているのでしょうか。

『お客様の声』は、読者であるお客様に、各社の情報活用やIT活用事例を読んでいただくことで、お悩みを解決するヒントや情報活用のヒントにつなげていただくことを目的にしています。

自社の課題に直面し、それを何とか乗り越えたいと考えているお客様は、同じような課題に直面した他社がどのようにそれを乗り越えたか、何を行ってうまくいったのかに興味がわくものです。

そんなお客様に、「これは役立つ」と思っていただくためには、アシストの活動や製品のことばかりを述べるのはあまり意味がありません。そのため、『お客様の声』ではあくまでも語り手であるお客様をメインに据え、お客様の取り組みを中心に取り上げています。製品の機能や導入効果などを前面に打ち出した製品事例とは趣旨が異なります。


-- 実際に『お客様の声』を配布してからの、反応はいかがでしたか。

お読みになったお客様から「自分のところも取り上げて欲しい」という立候補があったり、取材協力いただいたお客様からは「社内の研修資料や新入社員採用時の資料に使いたいので、もっと欲しい」と言われたりと、予想以上の反応をいただいています。

また、アシスト社内においても、「冊子に掲載されている事例と似たようなことで困っているお客様がいたので、参考になった」という声の他、「お客様からのアシストへの期待の大きさが分かり、モチベーションが上がった」とか、「他部署の活動状況が分かって、自分も頑張ろうと思った」といった声も多く聞こえてきました。大変うれしいことです。


■ 酪農農家がIT? 〜誰もが「なるほど」と思う、営業に役立つ事例を

-- 『お客様の声』を作るにあたり、特に注意
している点などはありますか。


読者が「へぇ、そうなんだ」とか「なるほどね」と思うような、取材先のお客様の「ならでは」が多く含まれる、有益な事例を掲載したいと常に心がけています。

要は、読んで面白い記事にしたいのです。

同じ業種だったとしても、それぞれビジネスモデルは異なります。ですので、社名を差し替えればどこの会社の事例としても通じてしまうような内容には絶対にしたくないと思っています。

第7号では十勝農業協同組合連合会様の事例を取り上げていますが、「酪農農家がこんなことをやっているんだ」という驚きや発見を持ってもらえたのではないでしょうか。実際、多くの方から「とても良かった」という声をいただきました。

この事例を他の農協さんに持っていけば、きっと共感してくださると思います。また、他の業界の方でも、農協という意外なところでの情報活用事例にアシストが関わっていることに対して、興味を持っていただけるのではないかと思います。

-- 取材先は、どのような基準で決めているのでしょうか。

取材先は、お客様のネームバリューや規模で選んでいるわけではありません。

誰もが知っている大手企業さんの事例もありますが、選ぶ際のポイントは、そのお客様のビジネスモデルと情報活用がいかに結びついているかです。アシストがお取引きいただいているお客様(約5,000社)の中から、 そのお客様「ならでは」の話が聞けそうな企業かどうかを一番意識して選んでいます。

また、アシストは全国で営業展開しているため、地域バランスも意識しています。

■ 「面白いね〜」と喜んでもらえる事例を作るには?

-- 読んで面白い記事にするために、工夫されている点はありますか。

まず、面白い情報を提供できる事例を探さなければなりません。例えば、お客様のビジネスモデルがユニークだったり、アシストの関わり方が独特だったりということを心がけています。

次に、取材することになったお客様の営業担当や技術担当などに、協力をお願いしています。

いくら良さそうな事例であっても、通り一遍の取材をしてしまうと、どこにでもあるような事例になってしまいがちです。素晴らしい事例作りのためには、そのお客様に携わったアシストの関係者しか知り得ない情報が欠かせません。その情報を共有するために、事前に関係者との綿密な作戦会議を行っています。この作戦会議で事例の善し悪しが決まると言っても過言ではありません。

関係者の皆さんの協力があってこそ、「面白いねぇ」と言っていただける事例ができるのです。


-- 社内での事前の情報収集が重要ということですね。

はい。取材時間は、写真撮影を含み約2時間ぐらいですが、その中で、すべてをお客様に語っていただくことは不可能です。そこで、アシストの営業、技術担当にできるだけ多くの情報を提供してもらうことが重要になります。それをもとに取材のストーリー立てを考えることになるからです。

そして、社内の情報収集や意見の刷り合わせ以外にも、取材先のお客様のご協力がもちろん必要となってきます。

『お客様の声』は、製品事例とは趣旨が異なります。他のお客様に役立つ面白い事例を作るには、取材先のビジネスモデルなど経営に近い部分の話が肝になってきますので、取材対応には現場のご担当者だけでなく、経営判断のできる担当エグゼクティブの方の同席をお願いしています。

過去には『お客様の声』の趣旨が伝わっておらず、エグゼクティブの方が取材の冒頭と終わりにだけ顔を出されて、肝心の部分のお話を聞くことができなかったという失敗もありました。

このように『お客様の声』は、「情報活用のアシスト」実践プロジェクトのメンバーの努力ではなく、アシスト関係者や取材先のお客様の協力があって初めてできあがるものなのです。今後とも『お客様の声』を他のお客様に喜んでいただける内容にするためには、社員の積極的な協力が不可欠です。



■ 和風デザインの意味 その他のこだわり

-- ところで、冊子のデザインが和風の凝ったものになっていますが、これはどのような理由からでしょうか。

これは3つの理由があります。

1つは社長のトッテンが日本の価値観を大切に考えているということです。最近は何でもアメリカ化、グローバル化という風潮がありますが、そうではなく、日本の良いところは良いところとして大切にしていきたいと考えています。トッテンは、日本の商習慣や伝統の中でビジネスを行ってきたからこそ、アシストがここまでビジネスを続けてこられたと思っています。その1つの現れがこのデザインです。

もう1つは、当初の配布ターゲット層であったエグゼクティブ層に受け入れていただける冊子にしたいという思いからです。そのため、文字を詰め込みすぎないで遊びとして余白を設けたり、日本の伝統色を基調にしたデザインにしたり、縦書きにしたりしています。ちなみに、デザインコンセプトの参考にしたのは、『CIO Magazine』です。

3つ目は高級感のあるデザインにすることで、冊子を大事に保管していただくことも期待しています。手にしたときはピンとこなくても、後に同じような問題に直面したときに参考にしていただければ、と思っています。


-- 他に工夫している点などありますか。

毎号、日本の伝統色や表紙デザインを取り入れているのですが、実は、裏表紙をめくったところに、こっそりと、その号の基調となっている色の説明があります。普通に見えるところに書くのではなく、わざわざ見えないところに伝統色の説明を入れています。これも奥ゆかしさという、いにしえより伝わる日本の文化を意識しています。

そして、お客様に渡すときに、「実はこんなところに、こんなことが書かれているんです」と裏表紙をめくりながら伝統色の話をしていただくと、「へぇ」と驚かれると思います。話のネタに困っているときやお客様の意識を引き寄せたいときなどに使えるかと思います。


■ 結果につながる『お客様の声』の効果的な使い方とは?

 -- 『お客様の声』をどのように使うと効果的でしょうか。

『お客様の声』は年3回、定期発行していますので、日頃なかなかお会いできないエグゼクティブ層に対して、最新のものをお届けすることを理由に、定期アポが取りやすくなると考えています。

実際、ある会社のエグゼクティブが、お客様の声の記事を読み、その取り組み内容に感化され、部下の方をその企業に訪問させた、というエピソードも残っています。「お客様の声」をきっかけとして、アシストが仲介役となり、お客様同士をお引き合わせすることにもつながったというわけです。

また、当初はエグゼクティブ層向けの配布を意識して作りましたが、社員からは、「製品ではなく、アシストそのものの強みを伝えられるので、アシストのことをあまりご存知でない新規顧客にも積極的に配布している」との報告を受けています。

例えば、新規に資料請求されたお客様を訪問する際に、会社案内だけを渡すのではなく、『お客様の声』を一緒に渡すことで、アシストがどのような立ち位置で振舞う会社なのかを、ユーザの声を通じてご理解いただき、アシストに対する信頼も高まり、その後の営業活動のプラスになったというものです。

他にも、1つの製品だけを購入いただいたお客様に対して『お客様の声』をお渡しすることで、本来なら相談がなければ、なかなか知っていただけない他分野でのアシストの支援活動を認知してもらうことで、その後の受注につながることもあります。

-- 確かに、お付き合い歴の短いお客様には売り込み臭さがしない『お客様の声』は有効かもしれませんね。

アシストでは、基本的に業務や業種を問わずに使える汎用ソフトを扱っています。お客様の業務でうまく使われている様子を知っていただくことが、製品を理解していただくことにも繋がると思います。『お客様の声』は直接的な販促ツールではありませんが、アシストという会社のスタンスを知っていただくには大変有効だと考えています。

アシストは、特定ソフトを売ることを会社として目指しているのではなく、お客様に使いこなしてもらうこと、お客様の業務がうまく回ることをお手伝いすることを目指しています。そういった意味で、『お客様の声』は、アシストという会社を間接的に売り込む販促ツールといえると思います。


■ 今後の抱負について

-- 最後に、今後の『お客様の声』作成に関する抱負をお聞かせください。

この冊子を通じて、お客様にアシストをもっと知っていただければと思います。

お客様にとって、単なる「パッケージソフトのアシスト、道具屋のアシスト」ではなく、「お客様の情報活用を支援するアシスト」になりたいと思っています。ここでいう「情報活用」とは、企業における情報システム全般を考えています。

アシストでは、「業務改善や利益追求といったビジネス課題の解決・改善に向けて、ある事実(データ)を、目的(意図)をもって捉えたときに、その事実は情報となり、その情報に基づき具体的なアクションを取ることが『情報活用』」だと捉えています。

よって、ビジネス・インテリジェンスやデータ・ウェアハウスといった分野だけを指すものではありません。情報システムに蓄積されたデータを業務において活用するという意味では、運用業務の標準化なども含まれますし、こういった情報活用を日々実現するための仕組み作りも含まれます。 

『お客様の声』は、ソフトやサービスの提供とは違った形で、お客様の情報活用を支援することが目的です。そのためにもお客様のお役に立つ、面白い情報を継続して提供し続けることが重要だと思っています。継続はともするとマンネリ化しがちですが、『お客様の声』は毎回新しい発見ができるような、各社の「ならでは」を中心に情報を提供していきたいと思っています。

『お客様の声』は、社員の皆さんからの「これは面白そうだ」というお客様推薦を元に、取材先を検討しています。今後とも、ここぞというお客様事例があれば、是非推薦いただきたいと思います。


※ 取材日時 2008年6月
※ カスタマワイズ作成
inserted by FC2 system